ゲームで鍛えた能力は、ゲームの外でも役に立つ?「認知能力の転移」を研究から調べてみた

ゲーム・PC

「ゲームをすると頭が良くなる」

そんな話を見かけることがあります。

FPSをやれば反応速度や注意力が鍛えられる。
RTSをやれば判断力やマルチタスク能力が身につく。
ゲームで鍛えた能力は、勉強や仕事にも役立つ――。

では、実際のところはどうなのでしょうか。

今回調べたかったのは、単純に「ゲームをすると認知能力が上がるのか」ではありません。

ゲームの中で鍛えた能力が、ゲームの外にまで持ち越されるのか。

ここを研究から調べてみました。

先に結論を言うと、ゲームによって一部の認知能力が向上する可能性はあります。ただし、その効果がゲームとは異なる勉強・仕事・日常生活の能力にまで広く転移するとは、現時点では言い切れません。


ゲームをすると、本当に認知能力は向上する?

研究では、ゲームによって一部の認知能力が向上する結果が出ている

ゲーム、特にアクションゲームについては、視覚的注意や空間認知など、一部の認知能力が向上するという研究があります。[PubMed]

実際、アクションゲームをプレイすることで、視覚探索や注意に関係する課題の成績が向上したという介入研究もあります。[PubMed]

つまり、

「ゲームをすると、何らかの認知能力に変化が起こる」

という話には、一定の研究上の根拠があります。

ただし、ここで「ゲームをすると頭が良くなる」と考えるのは早いでしょう。

認知能力には、注意力、記憶力、空間認知、判断力などさまざまなものがあります。

ゲームによって影響を受けやすい能力と、そうでもない能力があるからです。[PubMed]

ただし、研究によって結果にはかなり差がある

ゲームによる認知能力への効果については、すべての研究が同じ結果になっているわけではありません。

ゲーム経験者のほうが特定の認知課題で優れた結果を示していても、それがゲームによる効果なのか、もともとの能力差なのか分からない場合があります。[PubMed]

また、実際にゲームをプレイさせる研究でも、効果が確認される場合と、そうでない場合があります。[PubMed]

そのため現時点では、

「ゲームをすれば認知能力全般が向上する」

と考えるより、

「ゲームによって、一部の認知能力が向上する可能性はある。ただし、その効果は限定的で、研究結果も一貫していない」

と捉えるほうが実態に近いでしょう。


「ゲームをしている人のほうが優秀」は、ゲームの効果なのか?

ゲームをしている人と、していない人を比べただけでは効果とは言えない

ここで、研究を見るときに注意したいことがあります。

例えば、

「ゲームをたくさんする人は、注意力のテストでも成績が良かった」

という研究があったとします。

これだけを見ると、

「ゲームをやったから注意力が高くなったんだ」

と思いたくなります。

しかし、本当にそうでしょうか。

もともと注意力が高い人や、反応が速い人、空間認知が得意な人がゲームを好んでいる可能性もあります。

つまり、

ゲームをする → 能力が高くなる

のではなく、

もともと能力が高い → ゲームを好む

という関係も考えられます。

ほかにも、年齢や教育、性格、ゲーム以外の活動など、さまざまな要因が関係している可能性があります。

そのため、

「ゲーマーのほうが成績が良かった」

という結果だけでは、

「ゲームによって能力が向上した」

とは言えません。[PubMed]

これは、ゲームの認知効果を考えるうえで重要なポイントです。


では、ゲームで鍛えた能力はゲームの外にも転移する?

ここからが今回の記事の本題です。

仮にゲームによって、

  • 視覚的注意
  • 空間認知
  • 反応や判断
  • 複数の情報を処理する能力

などの一部が向上するとします。

問題は、その能力が別の課題でも使えるのかです。

研究では、この問題を「転移(transfer)」として考えます。

ゲームに近い認知課題には、能力が転移することがある

まず、ゲームと似た能力を使う課題への転移です。

これは比較的、期待できます。

例えばアクションゲームでは、画面上の複数の対象を追跡したり、限られた時間の中で視覚情報を選別したりします。

そのため、同じような視覚的注意を必要とする別の課題でも、ゲーム経験の影響が見られる可能性があります。

実際、アクションゲームの研究では、視覚探索や注意に関係する別の課題への改善が確認されています。[PubMed]

しかし、ゲームとは関係のない能力への転移ははっきりしない

問題はここからです。

例えば、

FPSで視覚的注意が鍛えられた
↓
だから仕事の集中力も上がる

となるでしょうか。

ここまで離れると、話はかなり難しくなります。

心理学では、ゲームに近い課題への転移を近接転移、ゲームとはかなり異なる課題への転移を遠隔転移と呼ぶことがあります。

認知トレーニング全般でも、練習した課題そのものや、それに近い課題では改善が見られても、まったく異なる能力まで広く向上する「遠隔転移」は確認が難しいことが知られています。[PubMed]

ゲーム研究についても同様で、ゲームによって鍛えられた能力が、ゲームとは大きく異なる課題にまで広く転移するという証拠は、まだ十分とは言えません。[PubMed]


実際の生活や仕事に役立つという証拠はある?

ここまで来ると、読者が一番知りたいところでしょう。

「結局、ゲームで鍛えた能力は現実でも役に立つの?」

現時点では、「まったく役に立たない」とも、「勉強や仕事の能力まで向上する」とも言えません。

一部の現実に近い課題で関連が見つかる研究はあります。

しかし、それを「ゲームをすれば日常生活の能力が広く向上する」というところまで一般化するには、まだ距離があります。[PubMed]

例えば運転は、ゲームとの比較を考えるうえで面白い例です。

ゲームも運転も、視覚情報を処理しながら周囲の状況を把握し、適切なタイミングで操作する必要があります。

「それならレーシングゲームをやっていれば、実際の運転にも役立つのでは?」

と考えるのは自然です。

ところが、過去の研究では、レーシングゲームをプレイしていた人の視覚探索が、経験豊富な実際のドライバーと同じになるわけではないことが示されています。[ScienceDirect]

一方で、近年の研究では、アクションゲームの経験とシミュレーター上の運転パフォーマンスとの関連を示す結果もあります。[ScienceDirect]

つまり、ここでも研究結果は単純ではありません。

重要なのは、

「ゲームで似た能力を使っている」

と

「現実の技能が身につく」

は同じではないということです。

実際の運転には、ゲームには存在しないさまざまな要素があります。

他の車との関係、交通ルール、危険予測、実際の道路環境などです。

ゲームで鍛えられた能力が、その一部を助ける可能性はあります。

しかし、ゲームの経験だけで現実の技能全体を身につけられるわけではありません。

これは運転に限らず、勉強や仕事について考える場合にも重要な視点です。


結局どうなの?ゲームで鍛えた能力はゲームの外でも役に立つ?

現時点で比較的はっきり言えること

ゲームによって、一部の認知能力が向上する可能性はあります。[PubMed]

また、ゲームで鍛えた能力が、ゲームに近い認知課題へ転移することもあります。[PubMed]

まだはっきり言えないこと

一方で、

「ゲームをすれば頭が良くなる」
「ゲームをすれば勉強ができるようになる」
「ゲームをすれば仕事の能力が上がる」

といった、ゲームとは離れた能力まで広く向上するとは、現時点では言えません。[PubMed]

ゲームをやめた後に、その効果がどの程度残るのかについても、まだ十分に分かっていません。

結論――「ゲームで頭が良くなる」とまでは言えない

今回の問い、

ゲームで鍛えた能力は、ゲームの外でも役に立つ?

に対する答えは、

「一部は転移する可能性がある。ただし、その範囲は限定的」

です。

ゲームによって特定の能力が鍛えられる可能性はあります。

しかし、それがそのまま勉強・仕事・日常生活の能力全般につながるとは言えません。

「ゲームで頭が良くなる」というより、「ゲームで鍛えた一部の能力が、ゲーム外の似た課題にも活かされる可能性がある」

――このくらいに捉えるのが、現在の研究から言える範囲でしょう。


参考にした主な研究

  • Bediou B, et al. Meta-analysis of action video game impact on perceptual, attentional, and cognitive skills. Psychological Bulletin, 2018. PubMed
  • Sala G, Tatlidil KS, Gobet F. Video game training does not enhance cognitive ability: A comprehensive meta-analytic investigation. Psychological Bulletin, 2018. PubMed
  • A game-factors approach to cognitive benefits from video-game training: A meta-analysis. 2023. PubMed
  • Wu S, Spence I. Playing shooter and driving videogames improves top-down guidance in visual search. Attention, Perception, & Psychophysics, 2013. PubMed
  • Ciceri MR, Ruscio D. Does driving experience in video games count? Transportation Research Part F, 2014. ScienceDirect
  • Howard J, Bowden VK, Visser T. Do action video games make safer drivers? The effects of video game experience on simulated driving performance. Transportation Research Part F, 2023. ScienceDirect

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