モバイルバッテリーは充電していなくても発火する? 保管中の事故と安全対策

生活・健康

モバイルバッテリーの発火事故というと、充電中のトラブルを思い浮かべるかもしれません。

では、充電ケーブルを抜き、スマートフォンにも接続せず、棚や引き出しに保管している場合はどうなのでしょうか。

充電中でも使用中でもないモバイルバッテリーの事故は、実際に確認されています。 保管中に出火した事例もあります。

ただし、事故が起きたという事実だけで、普通に保管している製品がどのくらい危険なのかまでは分かりません。

NITE(製品評価技術基盤機構)や消防庁、消費者庁の事故情報をもとに、発火に関係する条件と、保管・使用中止の判断材料を整理します。

充電していなくても発火事故は起きている

NITEが2026年7月に公表した資料によると、2021~2025年の5年間に把握したモバイルバッテリーの事故は506件でした。

事故発生時の状態は、次のように分類されています。

事故発生時の状態 件数
充電中 297件
使用中 49件
充電中かつ使用中 6件
充電中でも使用中でもない 129件
その他(配送中・路上放置) 4件
不明 21件
合計 506件

出典:NITE「『夏バテ(夏のバッテリー)』にご注意を」(2026年7月15日)

506件のうち129件が「充電中でも使用中でもない」状態だったことが分かります。

この129件には、自動車内での事故38件、リコール対象製品の事故17件も含まれています。ただし、これらは重複する場合があります。

また、129件すべてが長期保管中の発火事故だったわけではありません。使わずに持ち歩いていた場合なども含まれ得ます。129件すべてが火災だったと分かる内訳も、この資料には示されていません。

それでも、事故が充電中だけに限定されていないことは確認できます。

実際に「保管中」と記録された火災もあります。

消費者庁が2025年12月5日に公表した事故情報には、2024年10月16日に京都府で発生した火災が掲載されています。

製品はエアージェイが輸入したリチウム電池内蔵充電器「MB-T5000L」です。

製品を保管中に、本体と周囲が焼損する火災が発生しました。

調査では、内蔵のリチウムイオン電池セルが異常発熱して出火したと推定されています。一方、電池セルの焼損が激しく、異常発熱した原因までは特定できませんでした。

出典:消費者庁「重大製品事故に係る公表について」(2025年12月5日、管理番号A202400818)

ここで区別したいのは、「保管中に出火した」という事故の状況と、「なぜ出火したのか」という原因です。

公開資料からは、ケーブルが一本も接続されていなかったか、最後の充電から何時間経過していたかまでは確認できません。

したがって、この事例だけで通常の室内保管における発火頻度まで判断することはできません。

保管中の発火には何が関係するのか

モバイルバッテリーは、コンセントから切り離しても内部に電気エネルギーを蓄えています。

リチウムイオン電池の内部では、正極と負極が「セパレーター」と呼ばれる薄い膜で隔てられています。

衝撃などで内部構造が損傷し、正極と負極が直接つながる「内部短絡(ショート)」が起きると、大きな電流が流れて発熱することがあります。

温度上昇が制御できなくなる「熱暴走」に進み、発煙や発火につながる場合もあります。

つまり、外部から充電していなくても、電池内部の異常によって発火する経路は残っています。

では、実際の事故では何が原因になっているのでしょうか。

消防庁が公表した2025年の調査では、モバイルバッテリーから出火した火災は482件でした。

そのうち、出火原因として特定されたものには次のような事例があります。

特定された出火原因 件数
外部衝撃 41件
高温下での使用・保管 23件
製品の欠陥 18件
分解 11件
充電方法の誤り 11件
水没 1件

出典:消防庁「リチウムイオン電池等から出火した火災の調査結果」(2026年3月26日)

これは482件すべての原因を明らかにした表ではなく、原因が特定された一部の事故の内訳です。

高温の項目も使用中と保管中の両方を含むため、「保管中だけで23件」と読むことはできません。

その点を踏まえて、保管中にも関係する条件を見ていきます。

高温環境

NITEは、2024年に滋賀県で発生した事故を紹介しています。

店舗の駐車場で車内に置かれていたモバイルバッテリーが発火し、周囲も焼損しました。

調査では、電池セルの内圧が上昇して破裂し、放出された可燃性ガスに引火したと考えられています。

高温下での保管に関係する火災は、実際に確認されています。

夏の車内や直射日光の当たる窓際、暖房器具の近くを保管場所にしないことには根拠があります。

ただし、すべての製品に共通する「何℃を超えたら発火する」という境界が確認されているわけではありません。保管可能な温度範囲は、製品の説明書で確認する必要があります。

落下・圧迫などの損傷

外部衝撃も、実際の火災調査で確認されている原因です。

電池セルを圧縮したり曲げたりする実験でも、内部構造の変形によって短絡が発生することが示されています。

ただし、これは特定の電池セルを使った実験です。完成したモバイルバッテリーを何cmの高さから落とすと危険か、といった具体的な基準には置き換えられません。

一度落とした後、何日経過すれば安全かを判断できるデータも不足しています。

NITEは、かばんの中で硬い物や重い物に押しつけられることや、後ろポケットに入れたまま座ることなどを避けるよう注意しています。

製品の欠陥・リコール

製品自体の欠陥が出火原因と判断された例もあります。

これは、使用者が保管場所に注意するだけでは対処しきれない問題です。

外見上の異常がなくても、リコールの対象になっている製品があります。

そのため、膨張や異臭が出てからではなく、メーカーと型番に対応するリコール情報を確認することにも意味があります。

普通に保管した場合の発火リスクはどの程度なのか

ここまでの事故情報から、充電していない状態でも事故が起きることは分かりました。

では、自宅の棚などに置いているモバイルバッテリーが発火する確率は、どのくらいなのでしょうか。

今回確認した公的データからは、その確率を算出できません。

NITEの506件は、把握された事故の件数です。

国内に何台のモバイルバッテリーが存在し、それぞれが何時間充電され、何時間使用され、何時間保管されていたのかという情報は含まれていません。

さらに、NITEの分類では「充電中」に充電終了後およそ1時間以内の事故も含まれています。

そのため、「充電中297件、充電中でも使用中でもない状態129件」という数字から、充電中の方が約2.3倍危険だと判断することはできません。

事故件数の違いと、同じ時間だけその状態に置かれた場合の発火確率の違いは別だからです。

また、正常で損傷歴がなく、リコール対象でもない製品を、適切な室内環境で保管した場合に限った事故率も確認できませんでした。

保管中に発火した事故は実際にあります。ただし、普通に保管しているモバイルバッテリーが、どのくらいの確率で発火するのかは分かっていません。

発火事故の存在を過小評価せず、危険の大きさも誇張しない。そのうえで、実際に確認されているリスク要因を避けることが現実的な対応です。

モバイルバッテリーの保管方法と使用中止の判断

どこに、どのくらい充電して保管する?

NITEの注意喚起を踏まえると、保管場所では次の点に注意する必要があります。

  • 暑い日の自動車内に放置しない。
  • 直射日光が当たる窓際などを避ける。
  • 暖房器具の近くに置かない。
  • 重い物に押しつけられたり、強い衝撃を受けたりする場所を避ける。
  • 防水機能のない製品を水に濡らさない。

長期間使用しない場合は、電池残量にも注意が必要です。

NITEは、保管時にはなるべく満充電を避け、過放電による劣化を防ぐために、どの程度の頻度で充電する必要があるかを取扱説明書で確認するよう案内しています。

具体的な推奨値は製品やメーカーによって異なります。

例えば、Anker Japanの公式案内では、長期間使用しない場合、残量50~80%程度で保管し、3か月ごとに50%以上まで充電する方法が紹介されています。

出典:Anker Japan「モバイルバッテリーの安全な使い方と取扱いにおける注意点」

ただし、これはAnkerの一般的な案内であり、すべてのモバイルバッテリーに共通する安全基準ではありません。

残量50%なら発火しない、80%以上なら危険という意味でもありません。

これらの推奨には、自己放電や過放電による劣化を防ぐ目的もあります。最も発火しにくい残量を直接示した数値ではないのです。

長期保管時の残量や補充電間隔は、使用する製品の説明書を優先してください。

防災用のポータブル電源についても同様に、製品ごとの指定を確認する必要があります。大容量のポータブル電源と一般的なモバイルバッテリーでは、電池の種類や内部構造、保管条件が異なる場合があります。

どんな状態なら使用を中止する?

保管しているモバイルバッテリーに、次のような状態が見られる場合は対応が必要です。

製品の状態 対応
リコール対象になっている 使用を中止し、メーカーの回収・交換などの指示に従う
本体が膨張・変形している 使用・充電を中止し、メーカーや販売店に相談する
焦げたような臭い、異常な熱さがある 使用・充電を中止する。発煙・発火の兆候があれば身の安全を優先する
強く落として破損・変形した 使用を続けず、メーカー等に相談する
急激に残量が減る、正常に充電できない 異常の可能性があるため、使用を中止して相談する
目立った異常がなく、リコール対象外 メーカーの保管指示に従う。ただし、外見だけで安全性を保証することはできない

これらはNITEの注意喚起を基にした整理です。

リコール情報は、NITE SAFE-Liteやメーカーの公式サイトで確認できます。製品名だけでなく、型番まで照合してください。

長期間使用したモバイルバッテリーについても、年数だけで判断するのは適切ではありません。

電池の経年劣化は、容量の減少だけでなく内部の状態にも影響します。ただし、劣化が熱暴走に与える影響は、電池の種類や劣化の仕方によって異なります。

今回の調査では、「購入後3年で一律に使用中止」「5年以内なら安全」といった全製品共通の基準を裏付ける証拠は確認できませんでした。

メーカーが交換時期や使用期限を指定している場合は、その指示に従ってください。

異常のある製品を分解したり、一般ごみに混ぜたりすることも避けてください。回収・処分方法はメーカーや自治体に確認する必要があります。

なお、すでに発煙・発火している場合は、通常の点検や保管とは別の対応が必要です。

NITEは、煙や炎が噴き出している間は絶対に近づかず、人の安全を優先するよう注意しています。小型のモバイルバッテリーでは、火花が収まった後、大量の水をかけて消火する方法を案内していますが、対応が困難な場合は無理をせず119番通報してください。

出典:NITE「モバイルバッテリー『8.異常・発火時はどうする?』」

結局どうなの?

モバイルバッテリーは、充電も使用もしていない状態でも事故を起こします。保管中に発火した事例も実際に確認されています。

電池は外部から切り離しても内部にエネルギーを蓄えており、高温、衝撃による損傷、製品の欠陥などが発火につながることがあります。

一方、正常な製品を適切な場所で保管した場合の発火確率は、今回確認した公的データからは分かりません。

そのため、単に保管しているという理由で、すべてのモバイルバッテリーを危険だと判断する根拠はありません。

実際の保管では、高温・直射日光・衝撃・圧迫を避け、長期保管時の充電残量と補充電間隔はメーカーの指定に従ってください。リコール対象や異常のある製品は、使用を中止して適切に対応してください。

「充電していないから安全」でも、「置いておくだけで危険」でもない。

実際の事故で確認された原因と、製品の状態に基づいてリスクを減らすことが、現在の証拠から導ける判断です。

参考資料

  • 製品評価技術基盤機構(NITE)[2026年7月15日]「『夏バテ(夏のバッテリー)』にご注意を ~『リチウムイオン電池搭載製品』は3つのCで事故を防ぎましょう!~」公式資料(PDF)
  • 消費者庁[2025年12月5日]「消費生活用製品の重大製品事故に係る公表について」管理番号A202400818。公式資料(PDF)
  • 消防庁[2026年3月26日]「リチウムイオン電池等から出火した火災の調査結果について(令和7年)」公式資料(PDF)
  • NITE[2026年8月7日]「製品安全情報マガジン Vol.506 リチウムイオン電池搭載製品の事故」公式資料
  • NITE「モバイルバッテリー『8.異常・発火時はどうする?』」公式ページ
  • Anker Japan「モバイルバッテリーの安全な使い方と取扱いにおける注意点」公式ページ

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