健康的な食生活を続けていても、大腸がんになる人がいます。
野菜や果物を食べ、加工食品を控え、食事に気をつけていても発症するのであれば、食生活を見直すことに意味はあるのでしょうか。
結論から言うと、食生活と大腸がんの発症リスクには、科学的に裏付けられた関係があります。 ただし、どれほど健康的に食べても、発症を完全に防ぐことはできません。
さらに、健康によさそうな食事と、大腸がん予防の証拠が強い食習慣は、必ずしも一致しません。
今回は、国際的な研究評価と日本人を対象とした研究を中心に、どこまで分かっているのかを確認しました。
大腸がんのリスクを高める食習慣には、強い証拠がある
食生活と大腸がんの関係について、世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)は、世界各国の研究を継続的に評価しています。
その中で、加工肉と飲酒は大腸がんの原因として強い証拠があると判定されています。赤肉についても、原因である可能性が高いと評価されています。
ここで扱うのは、大腸がんの新規発症リスクです。大腸がんによる死亡率や、ポリープの発生率とは区別する必要があります。
なお、以下で紹介するリスクの割合は、主に摂取量が異なる人々を比較した研究に基づいています。自分が食生活を変えた場合に、同じ割合でリスクが上下すると保証するものではありません。
加工肉は、発がん性があると評価されている
ハム、ベーコン、サラミ、一部のソーセージなどの加工肉については、比較的明確な結論が出ています。
国際がん研究機関(IARC)は2015年、加工肉を「ヒトに対して発がん性がある」とするグループ1に分類しました。大腸がんとの因果関係について、ヒトで十分な証拠があるという評価です。
IARCが紹介した研究の統合解析では、加工肉の摂取量が1日50g多いことに対応して、大腸がんの相対リスクが約18%高いと推計されています。
WCRFの別の解析でも、1日50g多いことに対応して、相対リスクが約16%高いという結果でした(相対リスク1.16、95%信頼区間1.08〜1.26)。
18%と16%で数値が異なるのは、対象となった研究や解析時点などが違うためです。リスクが上昇するという方向性は一致しています。
ただし、これは「加工肉を50g食べると18%の確率でがんになる」という意味ではありません。もともとの発症確率に対する相対的なリスク上昇です。
また、IARCのグループ1は、発がん性についての証拠の確かさを示す分類です。たばこと同じグループだからといって、危険の大きさまで同じという意味ではありません。
飲酒も、大腸がんの原因として評価されている
飲酒についても、WCRFは大腸がんの原因であるという強い証拠があると評価しています。
この評価は、特に純アルコールで1日約30gを超える摂取量についての証拠に基づいています。
さらに、2025年に発表された英国の大規模研究では、約54万人の女性を平均16.6年間追跡しました。
その結果、純アルコールの摂取量が1日20g多いことに対応して、大腸がんの相対リスクが約15%高いと推計されました(相対リスク1.15、95%信頼区間1.09〜1.20)。
飲酒と大腸がんの関係は、日本人を対象とした研究でも支持されています。
赤肉は、加工肉とは証拠の強さが異なる
赤肉とは牛肉だけではありません。研究上は、豚肉や羊肉など、哺乳類の肉も含まれます。
WCRFは赤肉について、大腸がんの原因である可能性が高いと評価しています。
研究の統合解析では、赤肉の摂取量が1日100g多いことに対応して、大腸がんの相対リスクが約12%高いと推計されました(相対リスク1.12、95%信頼区間1.00〜1.25)。
ただし、この解析単独では統計的な不確実性が残ります。
日本人を対象とした研究でも、リスク上昇を示す結果があります。
国立がん研究センターなどによるJPHC研究では、約8万人を対象に分析し、女性で赤肉の摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループと比べて、結腸がんのリスクが相対的に約48%高いという結果でした(ハザード比1.48、95%信頼区間1.01〜2.17)。
一方、この研究では加工肉との明確な関連は確認されませんでした。
別の高山コホート研究でも、男性で赤肉摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループと比べて、大腸がんのリスクが相対的に約44%高いと報告されています(ハザード比1.44、95%信頼区間1.10〜1.89)。
女性では明確な関連が確認されていません。
これらは摂取量の多いグループと少ないグループの比較であり、1日100g当たりの分析とは比較条件が異なります。
性別や発症部位によって結果に違いがあるものの、日本人に赤肉のリスクが無関係とは言えません。
WCRFは赤肉を食べる場合、調理後の重量で週350〜500g程度以内に抑え、加工肉は食べるとしてもごく少量にすることを推奨しています。
これは研究を基にした予防上の目安であり、週500g未満なら発症リスクがなくなるという安全基準ではありません。
全粒穀物・食物繊維・乳製品には、リスク低下との関連がある
リスクを高める食品だけでなく、発症リスクの低下と関連する食品も調べられています。
WCRFが「大腸がんを予防する可能性が高い」と評価しているのは、全粒穀物、食物繊維を含む食品、乳製品などです。
全粒穀物と食物繊維
玄米や全粒粉などの全粒穀物、食物繊維を多く摂る人は、大腸がんの発症リスクが低い傾向があります。
WCRFも、これらの食品には大腸がんを予防する効果がある可能性が高いと評価しています。
ただし、日本人を対象とした研究では、食物繊維の摂取量と発症リスクの明確な関係が確認されなかった例もあります。
そのため、全粒穀物や食物繊維を意識して摂ることには科学的な根拠がありますが、白米を完全にやめる必要があるわけではありません。
牛乳・乳製品とカルシウム
乳製品についても、大腸がんの発症リスクが低いこととの関連が報告されています。
WCRFの研究統合解析では、牛乳の摂取量が1日200g多いことに対応して、大腸がんの相対リスクが約6%低いという結果でした(相対リスク0.94、95%信頼区間0.92〜0.96)。
さらに、2025年の英国の大規模研究では、食事からのカルシウム摂取量が1日300mg多いことに対応して、大腸がんの相対リスクが約17%低いと報告されました(相対リスク0.83、95%信頼区間0.77〜0.89)。
ただし、後者の研究は主に英国の女性を対象としています。日本人全体でも同じ割合でリスクが低くなるとは限りません。
また、食品からカルシウムを摂ることと、カルシウムサプリを追加することは同じではありません。
WCRFはカルシウムサプリについても保護的な証拠があると評価しています。しかし、36,282人の閉経後女性を対象に、カルシウム1,000mgとビタミンD400 IUを毎日摂取させたランダム化比較試験では、平均約7年間で大腸がん発症の減少は確認されませんでした。
食品の観察研究では保護的な関連が見られても、サプリメントによる介入効果は一貫していないのです。
大腸がん予防だけを目的に、高用量のカルシウムサプリを自己判断で始めることは勧められません。
野菜や果物を多く食べれば十分なのか
野菜や果物も健康的な食生活に欠かせない食品ですが、大腸がんだけに限定すると評価が少し異なります。
WCRFは、野菜や果物の摂取量が非常に少ない場合に、大腸がんリスクが上がることを示唆する証拠があるとしています。
ただし、その確度は加工肉や飲酒、全粒穀物、食物繊維などより低い「限定的な証拠」です。
野菜や果物を食べることには、がん以外の健康上の意義もあります。しかし「野菜をたくさん食べているから、大腸がん予防は十分」とは判断できません。
なお、実際に食事を変更した大規模試験では、大腸がんの発症率が下がらなかった例もあります。そのため、食生活を何歳から、どの程度、何年間変えれば、発症リスクがどれだけ下がるのかについては、まだ不明な部分があります。
無添加・無農薬・健康食品は大腸がん予防に必要なのか
食生活の見直しというと、無添加食品や有機食品を選んだり、抗酸化成分を多く含む食品を取り入れたりする方法も考えられます。
しかし、これらは大腸がん予防についての科学的根拠を、別々に確認する必要があります。
今回確認した主要な国際評価では、次のような実践は、人間の大腸がんの新規発症を減らす方法として確立していません。
- 無添加食品だけを選ぶ
- 無農薬・有機食品へ切り替える
- ブロッコリースプラウトなど特定の健康食品を積極的に食べる
- 抗酸化物質を多く摂ることだけを重視する
- 水素水を飲む
- 白米や糖質を完全に避ける
特定の成分に、試験管や動物実験で抗がん作用が見つかることはあります。
しかし、それを含む食品を人が食べた結果、実際に大腸がんの発症が減ったかどうかは別問題です。
また、食品添加物も農薬も、それぞれ異なる物質の集まりです。一部の物質に関する研究結果を、すべての添加物や農薬に当てはめることはできません。
予防効果が確立していないからといって、その食品に健康上の価値がないとも、安全性が証明されたとも言えません。
ただ、大腸がん予防という目的に限定すれば、現時点では特殊な食品を探すより、加工肉や飲酒の量、赤肉の摂り方、全粒穀物や食物繊維を含む食品の摂取状況を確認する方が、直接的な研究との対応が明確です。
結局どうなの?
大腸がんの発症リスクを下げるために、食生活を見直す意味はあります。
科学的根拠が比較的強いのは、加工肉や飲酒を控えること、赤肉の過剰摂取を避けることです。 全粒穀物や食物繊維を含む食品、乳製品・カルシウムについても、発症リスクが低いこととの関連が支持されています。
一方で、無添加・無農薬の食品や特定の健康食品を選ぶことが、大腸がんの発症を減らす方法として確立しているわけではありません。
実生活で判断するなら、次のように整理できます。
- 根拠が比較的強いこと: 加工肉を少なくし、飲酒量を抑え、赤肉を食べすぎない。全粒穀物や食物繊維を含む食品を食生活に取り入れる。
- 条件付きで考えること: 乳製品や食事からのカルシウム摂取は保護的な関連がある。ただし、予防目的の高用量サプリメントとは分けて考える。
- 予防法として確立していないこと: 無添加・無農薬への全面的な切り替えや、特定の健康食品、白米・糖質の完全除去など。
大腸がんには、食生活以外にも年齢や遺伝など、さまざまな要因が関係しています。
そのため、食生活を改善することで発症リスクを下げられても、大腸がんを完全に防げるわけではありません。
健康的な食事を続けていても発症する人がいるのは、そのためです。
また、食生活に気をつけていても、推奨される大腸がん検診を省略する理由にはなりません。
加工肉と飲酒のリスクについては、専門機関による因果関係の評価まで進んでいます。すべてが単なる推測というわけではありません。
大腸がん予防のために、厳格で特別な食事法を追い求める必要はありません。
研究で比較的確かなことから、自分の食生活に合う形で見直していく。それが、現在の科学的根拠に最も沿った考え方です。
参考資料
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国立がん研究センター がん対策研究所. Cancer Prevention for Japanese.
公式資料 -
National Cancer Institute. What Is Cancer?
NCI公式解説


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