「きっと上手くいく」と信じた方が、実際に成功しやすくなるのでしょうか。
前向きな気持ちがあれば挑戦しやすくなり、失敗しても努力を続けられそうです。しかし、努力を続けやすくなることと、実際に成果が上がることは別の問題です。
研究では、楽観的な期待によって努力が増えることが確認されています。一方、成果との関係は一様ではありません。学業ではプラスの関連があるものの、起業では逆にマイナスの関連を示した研究もあります。
では、楽観主義はどこまで役立ち、何に注意する必要があるのでしょうか。
楽観的になると、努力を長く続けられるのか
2015年、Tenneyらは、楽観的な期待が努力と実際の成績にどう影響するかを実験で調べました。
参加者に特定の対象を探す課題を行ってもらったところ、よい成績を取れるという期待を高めたグループは、期待が低いグループより平均約2分半長く課題に取り組みました。
しかし、実際の成績には統計的に有意な差が確認されませんでした。
成功できそうだと思うことで、長く頑張るようにはなった。それでも、その実験では成果の明確な改善につながらなかったのです。
ただし、この実験で操作されたのは、性格としての楽観性ではなく、特定の課題に対する期待です。また、短時間の課題で成績の差が確認されなかったからといって、長期的な学習や仕事でも効果がないとは言えません。
重要なのは、前向きな期待が努力を増やしても、成果まで必ず改善するわけではないという点です。
実際の成功との関係は、学業と起業で違っていた
努力を続ければ、その積み重ねが成果につながることもあるはずです。
実際、楽観性と客観的な成果にプラスの関連が見られた研究もあります。ただし、調べる対象によって結果は異なっていました。
学業では、その後の成績とプラスの関連がある
2018年、ドイツの中学生約6,000人を追跡した研究では、楽観性が高いことと、その後の成績の改善にプラスの関連が見られました。
ただし、楽観性が高いほど成績が際限なく改善するわけではありません。平均以上の楽観性では、そのメリットが頭打ちになる傾向がありました。
また、学生の成績予測と実際の成績を調べた大規模なメタ分析でも、肯定的な期待と学業成績にはプラスの関連が確認されています。
もっとも、こちらが調べたのは「自分はどのくらいの成績を取れそうか」という予測であり、性格としての楽観性とは異なります。
さらに、期待がその後の成績を予測するだけでなく、過去の成績も将来の期待に影響していました。
成績がよい学生が「次もよい結果を出せそうだ」と考えるのは、根拠のないポジティブ思考ではなく、過去の実績を踏まえた予測かもしれません。
学業では、楽観性や肯定的な期待と実際の成果にプラスの関連があります。
ただし、これらは主に観察研究です。楽観的な人と成績との関連が確認されても、意識的に楽観的になれば成績が上がるとまでは証明されていません。
起業では、楽観性が高いほど業績が低い研究もある
一方、起業では逆方向の結果も報告されています。
2009年、HmieleskiとBaronが201人の起業家を調べた研究では、性格としての楽観性が高いほど、企業の売上成長と雇用成長が低いという関連が見られました。
また、英国の長期調査では、将来の家計状況を実際よりよく見積もる傾向が強い人ほど、その後に自営業へ移った際の所得が低いという結果が報告されています。
ただし、後者が測ったのは将来予測の楽観的な偏りであり、明るい性格そのものではありません。また、どちらも観察研究なので、楽観性が業績を悪化させたと断定することはできません。
それでも、ここには重要な問題があります。
挑戦を始めることには前向きな期待が役立っても、成功の見込みまで高く評価しすぎれば、収益性の低い事業を選んでしまうかもしれません。
この経路が直接証明されたわけではありませんが、起業研究の結果とは整合します。
挑戦しやすくなることと、実際に成功することは別なのです。
「成功できそう」と「成功した自分を想像する」は違う
もう一つ重要なのが、「ポジティブ思考」の中身です。
「この目標は達成できそうだ」と期待することと、「達成して満足している自分」を気持ちよく思い描くことは、研究では区別されています。
OettingenとMayerの2002年の研究では、成功への肯定的な期待は、その後の努力や達成とプラスに関連していました。
一方、成功した未来を心地よく思い描く「肯定的な空想」は、努力や達成とマイナスに関連していました。
別の学生を対象とした研究でも、肯定的な空想が多い学生ほど、後の欠席が多く、成績が低い傾向が報告されています。
これらは主に観察研究による結果ですが、肯定的な空想を実験的に誘導すると、その後の行動に向けた活性化が低下した研究もあります。
だからといって、成功した姿を想像することが常に悪いわけではありません。
ここで分かったのは、成功できる可能性を考えることと、成功した気分を先取りすることでは、努力への関係が異なるということです。
どちらも日常ではポジティブ思考と呼ばれますが、同じ効果を期待することはできません。
挑戦するとき、楽観主義をどう考えればよいのか
ここまでの研究から、楽観主義を単純に「よいもの」「悪いもの」と判断するのは適切ではないと分かります。
実生活では、次のような点が判断材料になります。
成功を確信するまで待つ必要はない
楽観的な期待は努力を後押しすることがありますが、成功への強い確信が挑戦の必須条件だと確認されたわけではありません。
失敗しても大きな損失にならない挑戦なら、十分な自信がなくても試してみて、その結果から次の判断をするという選択肢があります。
ただし、これは研究で成功率の向上が実証された方法ではなく、実用上の考え方です。
続ける価値があるかは、結果も見て判断する
努力を続けること自体は大切でも、その努力が望む成果につながっているかは別に確認する必要があります。
例えば、勉強時間を増やしても理解度が上がらないなら、勉強時間だけでなく学習方法を見直す余地があります。
事業でも、売上や利益の予測が繰り返し外れるなら、当初の期待だけを頼りにせず、計画を修正することが考えられます。
これらは研究から直接導かれた具体的な成功法則ではありません。しかし、努力の増加と成果の改善が必ずしも一致しないという研究結果を踏まえた判断です。
前向きな期待と現実的な判断を両立させる
成功できると期待することと、失敗する可能性を考えることは、必ずしも矛盾しません。
例えば、資格試験に合格できると期待しながら、現在の理解度や模擬試験の結果を確認することはできます。
同じように、起業など失敗したときの損失が大きい判断では、成功を信じる気持ちだけでなく、収益の見通しや失敗時の損失を考える必要があります。
今回の研究では、前向きな期待が努力を後押しする一方、楽観的な予測の偏りが不利な成果と関連する場合もありました。
そのため、前向きな期待は行動の後押しに使い、続けるかどうかは現実の情報も踏まえて判断するという考え方は、研究結果と整合しています。
ただし、この具体的な判断方法自体が、あらゆる目標で成功率を高めると直接証明されたわけではありません。
結局どうなの?
楽観的な期待は、努力を始めたり、長く続けたりする助けになることがあります。学業などでは、実際の成果とのプラスの関連も確認されています。
しかし、楽観的になれば成功率が上がるとは言えません。
努力が増えても成績に明確な改善が見られなかった実験があり、起業では高い楽観性や楽観的な予測の偏りと、低い業績・所得が関連した研究もあります。
今回の研究から分かるのは、次の違いです。
- 努力への影響: 楽観的な期待によって、行動や継続が増えることがある。
- 成果との関係: 学業などではプラスの関連があるが、状況によってはマイナスの関連もある。
- 因果関係: 意識的に楽観的になるだけで、現実の成功率が上がるかは十分に確認されていない。
また、成功を期待することと、成功した未来を気持ちよく空想することも同じではありません。
今回の研究からは、成功のために無理にポジティブな性格を目指す必要があるとは言えません。
目標に向かうときには、達成の可能性を考えつつ、実際の結果も確認する。そして、得られた情報に応じて行動や計画を見直す。
前向きさを努力の後押しに使い、成功の見込みは現実の情報で判断する。
現在の研究からは、そのように整理するのが妥当です。
参考資料
- Tenney, E. R., Logg, J. M., & Moore, D. A. (2015). (Too) Optimistic About Optimism: The Belief That Optimism Improves Performance. Journal of Personality and Social Psychology.
- Tetzner, J., & Becker, M. (2018). Think Positive? Examining the Impact of Optimism on Academic Achievement in Early Adolescents. Journal of Personality.
- Pinquart, M., & Ebeling, M. (2020). Students’ Expected and Actual Academic Achievement – A Meta-analysis. International Journal of Educational Research.
- Hmieleski, K. M., & Baron, R. A. (2009). Entrepreneurs’ Optimism and New Venture Performance: A Social Cognitive Perspective. Academy of Management Journal.
- de Meza, D., Dawson, C., Henley, A., & Arabsheibani, G. R. (2019). Curb Your Enthusiasm: Optimistic Entrepreneurs Earn Less. European Economic Review.
- Oettingen, G., & Mayer, D. (2002). The Motivating Function of Thinking About the Future: Expectations Versus Fantasies. Journal of Personality and Social Psychology.
- Kappes, H. B., Oettingen, G., & Mayer, D. (2012). Positive Fantasies Predict Low Academic Achievement in Disadvantaged Students. European Journal of Social Psychology.


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